「ボンッ!!」
衝撃音と共に屋根が一瞬へこんだ。「何だろう?雷でも落ちたのかしら?」
10月12日夜、その日は友達のラストナイトという事もあり、リピーターの仲間6人で
クタレギャン通りのカフェで生バンドの演奏を聞きながらワイワイと騒いでいた。
みんなは話に夢中で全く気づいていない様子だったので、歌織も特に気になっていなかった。
が、しばらくすると西洋人達が大声をあげてすごい人数でお店の前を走り抜けていく。
「何?火事じゃない?」さすがに只ならぬ通りの様子にみんな気づき、お店の前へ出てみると、
通りの向こうで物凄い炎が上がっている。

「Bom!! Help Heeeelp!!」全身血だらけの西洋人達が狂ったように叫びながら走ってくる。全く状況が飲み込めない私達。
とにかくローカルの友達が様子を見てくるまでその場で待機していたが、
戻ってきた彼が「爆発だよ!!サリクラブで。みんなすごい怪我。とにかく逃げて!!」と、真っ青な顔で帰ってきた。
それでも状況が飲み込めないまま、とにかくサリとは逆方向に逃げる私達。
その間に何台の消防車とすれ違っただろうか。
もう通りはサイレン音と警察と野次馬とで大混乱。
とにかくホテルに戻ろうと友達のホテルの中で一番現場から離れている所へと避難した。

「ガス爆発かなぁ。」何てその時は現場の状況が良くわかっていなかったのでそんな呑気な事を言っていたが、
しばらくしてそれぞれ自分達のホテルへ戻ろうと歌織も一緒にフォーティンホテルへ友達と帰る事にした。

フォーティンは現場と同じレギャン通りから500m程離れた所に建っている。
ホテルに近づくにつれ、お店のガラスが割れて通りに散乱していたり、傷を負った人達が路頭に迷ったりと、
歌織が想像していた以上な状況にあった。
初めは話しながら歩いていた歌織と友達も、この只ならぬ状況にだんだんと無言になっていった。
「フォーティン、大丈夫かなぁ。」
それでもまだ状況がわからないでいる私達。そしてホテルに着いて息を呑む。
テラスの椅子と机が散乱し、窓ガラスが外れ、そしてドアが開かない。
「ちょっと、これさっきの爆発のせい?」ここに来てやっと事態の重大さに気づいた。
サリクラブから500mも離れたホテルでさえこんな状況だって事は・・・。「これ、ただのガス爆発じゃないよ!!」背中が凍りつく。
とにかくもう1度フォーティンの前に出てみた。「歌織!!無事だったの?テロだよ、バリでテロ!!いっぱい人が死んでるよ!!」と、
フォーティンのスタッフが真っ青な顔で言う。「え?テロ?何で?何でバリでテロなの?」もう歌織の頭の中は真っ白。
そして未だに燃えつづけている炎。呆然と立ち尽くしている人達。鳴り止まないサイレン。
それに包まれてその日は一睡も出来なかった。
 
 翌朝、少し落ち着きを取り戻した歌織と友達は現場に行ってみようとサリクラブまで歩き出した。
レギャン通りは日曜日という事もあり、野次馬達であふれ返っている。通り沿いのお店のガラスは割れ、全て閉まっている。
現場に近づくにつれ、焦げた臭いが鼻につく。
ただ、サリクラブより随分手前で既に通行止めになっていたが、この状況をみただけで昨日の惨事が伺える。
ふと、「昨日さ、ラストナイトだから実はサリクラブ行こうかって言おうと思ってたんだよね。」と、友達が言う。
「・・・・・・。実は、歌織もそう思ってたの。。。」それからホテルまで無言で帰ってきた。
 
 サリクラブはクタの中でも曜日関係なく一番外国人(特にオーストラリア人と西洋人)で毎晩盛り上がっている
外国人専用スポットである。ここのスタッフの陽気さが好きで、
歌織も日本から友達が来るとみんなで楽しむのにちょうどいい事もあり、よく知っている場所であった。
前を通りかかるだけで「ヘイ!!歌織!!元気〜?」なんてよく道端で、
もらったピーナツをつまみながらスタッフとおしゃべりしたものだ。
 
 とにかく彼らの無事を祈りながら、何よりも歌織の心配をしてくれているうちのスタッフの元へと帰ってきた。
「歌織さん!!良かった!!無事で!!すごい惨事だよ。TV見て!!」と、半べそのスタッフに促されて初めて爆発の現場を見た。
「えっ?何これ・・・・。」
 そこにはただのがれきの山だけが映っていた。「これ、どこ・・・・?」恐る恐る聞く。
「何言ってるの!!サリだよ、サリクラブ!!歌織さん、しっかりしてっ!!」いつの間にか涙があふれていた。
次々に映る映像には跡形もなくなったサリクラブと犠牲者達の無残な遺体。人々の悲痛の叫び。
これが昨日起こった出来事なのかとテレビを見て初めて恐ろしさがこみ上げる。
「私・・・昨日・・・行こうと思ってたの・・・。ここに、、、」涙で声にならない。
そして、あの陽気なスタッフ達の笑顔が脳裏に映る。
「みんな死んじゃったんだ。。。」ついさっきまで無事を祈っていたのに、こんな状態で誰が助かるのだろうか。
胸が痛い、、、声にならない、、、涙だけがこみ上げてくる。
信じられない光景を目の当たりにしてその場に座り込んだまま動けなくなってしまった。
 
 自分に起こる出来事というのは必ず何か意味があると歌織は信じている。
但し、今回の爆発で一体歌織に何を学べというのだろうか・・・。
あまりにも犠牲がありすぎるし、あまりにも無残で、残酷すぎるじゃないか。残ったのは歌織の心に残った深い傷だけ。
考えるだけで胸が張り裂けそうに痛い。目を閉じるとサリのスタッフの笑顔が浮かんでくるばかり。
うちのスタッフの中でも友達が亡くなったり、兄弟が未だに行方不明になっていたりしている。
死者200名近く、これはバリ島にとってとてつもない人数である。日本の何万人にも値する。
今回の爆発で外国人はもちろん、多くのインドネシア人も亡くなっている。
みんな口には出さないけど、それぞれ心に負った深い傷、悲しみ、怒りを一体どこにぶつければいいんだろう。。。
 
 神々が住むこの美しい島を襲った惨事。そして今も瓦礫の下にたくさんの犠牲者がいる事だろう。
どうか犠牲者の人達が安らかに眠れるように本当に心から冥福を祈ると共に、1日でも早く大好きなバリが戻ってきますように。。。
 
 そしてこの混乱の中、新しい生命が誕生した。うちのSPAのディレクターに男の赤ちゃんが産まれた。
体重が足りず、小さなプラスチックのベッドの中に横たわる小さな生命。
手と足を小さく動かしつつ必死に生きようとする小さな生命。
 
 人間は死ぬために産まれてくるのか、生きるために産まれてくるのか・・・。人間の運命って一体何なんだろうか?
 
PS. 皆様からたくさんの心配のメール、励ましのメールを頂きまして本当にありがとうございました。
お蔭様で無事にまた元の生活に戻る事が出来ました。
今まで通り、こちらで生活するつもりです。落ち着きましたらぜひいらして下さい。
美しい島は何があっても変わりませんから・・・。

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歌織の独り言
17 October 2002