歌織の独り言

2 March 2003


 最近歌織は休みの日、だいたいブドゥグルに行っている。
ブドゥグルはバリのちょうど真ん中辺りに位置するところで、
日本で言えば軽井沢のような避暑地である。
平均気温は20℃位で、朝晩は「うわぁ〜寒いよ〜!!」と、
日本の冬を知っている歌織でもガタガタと震えだすくらい。
(まぁ日本の冬の方が遥かに寒いんだろうけど・・・)
土日になるとローカルっ子達のちょっとした旅行地になるのである。
そしてここは、バリの市場に出回っているほとんどの野菜や果物を生産している地でも有名である。
 
 何でブドゥグルかって?
そうそう、実は今うちのボスがこのブドゥグルにイチゴ畑を持っていて、只今イチゴ生産中。
当初はSPAが忙しかったりプライベートが忙しかったりしてナカナカここに来れなかったんだけど、
一度訪れてしまうと普通のバリでは想像できないくらいの涼しさと、
辺り一面イチゴ畑でその遠方に湖が覗える景色の良さに感動し、
つい何度も足を運んでしまっている次第でございます・・・。
 
 そしてここのイチゴ畑に2家族が共同で住んでいる。
雨の日も風の日もこの家族がイチゴを守ってくれているのだ。
そしてこの家族がいつも、歌織の心を和ませてくれるんだよね・・・。
 
 住んでいる所と言えば、こう言っちゃ申し訳ないけど、
ハッキリ言って「家」と言うよりは「小屋」でしょって感じで、コンクリートの壁にトタンの屋根がかぶせてあるだけ。
そして1家族がそれぞれ4畳位の部屋で寝泊りしてるんです。想像できる?そんな所に自分が住むの。
歌織は全然無理です。「キャーゴキブリ!!」とか言ってる世界じゃないからね、、、
 
 でもさ、この家族が実に微笑ましくて、ご夫婦もとっても仲睦まじいんだ。
正に寄り添って生きているって感じなんだよね。
お父さんは家族のために働いて、家族はそのお父さんに感謝しながら生活してるの。
 ここの家族にエカって言う7歳の女の子がいるんだけど、彼女は今小学校2年生。
実は元々この1家族は歌織の家の近くに住んでいて、最近ここのイチゴ畑に引っ越してきたばっかりだったんだ。
とっても人懐っこいエカだけど、時々ふと見せる寂しい顔がちょっと気になってたんだよね。
 「エカ、学校はどう?新しい友達できた?」その質問に一瞬ドキッとするエカ。
そして「ううん。まだいないの・・・。」やっぱりそうだったか。
 歌織も父親が転勤族だったからこの気持ちはよーーーくわかるんだよね。
やっと仲良くなって慣れてきた頃に友達と別れなきゃいけない悲しさ。
そして新しい学校に入ってまた1から友達作ってって。これ、小さい子の繊細な心にはかなりの大仕事なわけ。
まぁこのおかげで今の歌織が出来上がったんだけど。(笑)
「エカさぁ、まだ前のお友達が恋しい?」「うん。恋しい。でもね、お父さんのお仕事だからしょうがないの。
お父さんが一生懸命お仕事してくれてるからエカもがんばらないと」って。
世の中のお父さん、聞きました?このセリフ。
自分の娘に聞かせてあげたいでしょ。(笑)
 
 でもさ、こんな小さい子でもわかってるんだよね。自分が我慢しなきゃいけない事、
そして家族が生きるために誰が頑張ってくれてるかって事。
そして実際パパがイチゴ畑で一生懸命仕事しているのを見ていて、きっとその事をエカは肌で感じてる。
そしてお父さんもそんな家族を持ってるからこそ一生懸命働けるんだろうなぁってこの家族を見て思うんだ。
ここの家のパパは「パパお仕事に行って来るからね」って必ず出て行く前に言うんだよね。
ってゆうか仕事場目の前なんだけどさ、でもこうゆうのって大事じゃない?
 
 歌織もね、本当に小さい頃、休日父親の会社に連れて行ってもらったことがあるんだ。
細かい事は昔だから全然覚えてないけど、大きなオフィスに机がいっぱい並んでて、
そして何より大きな窓に感動した覚えがある。
そこから見た風景は覚えてないけど、小さいながら「パパ、すごいなぁ。」って思った。
それから高速で父親の会社の前を通るたびに「パパのお給料が上がりますように・・・」って手を合わせてお祈りしてたっけな。(笑)
だから歌織も転勤の時は悲しかったけど、小さいなりに理解していた気がする。
 
 「子供は3歳までに全ての親孝行をする」って良く言うように、
そんな純粋な気持ちがいつしか消えていってしまうんだよね、残念ながら。
中途半端に世の中を知って、この豊かな日本で育って、欲しいものが何でも手に入ってさ。
それでも自分が満たされてないとか何か不満だとか言い出す。
あまりにも豊か過ぎるために、どうしていいかわからなくなっちゃうんだよね、きっと。
 
 ブドゥグルに来ていつも思う。この人達は本当に幸せなのかな?って。
だってね、なーーーーーーーんにもないんだよ、周りイチゴ畑だけ。
ブドゥグルも一応街だけど、車で20分位行った所にスーパーマーケットがあるだけ。
その大きさも日本のコンビニが2階建てになった位の広さで、その周りに食堂がちょっと並んでるだけだし。
きっと彼らは日本に電車が走ってたりとか飛行機でどこの国にも行けるとか、知らないだろうし、想像すらできないだろう。
だって元々そんなものは自分の生活圏にないんだから。僅かなお金で家族と食べるために、生きるために一生懸命働いてさ。
家族のパパがこの前言ってた。「毎日食べる事ができて、これ以上私達は何を望めばいいんだ?」って。
そうなの、そうなんだけどさ、もっとあるんだよ、違う世界が、
あるんだけどな・・・って心で思ってもそれはかなわない現実だしな、、、って思っていつも黙ってしまったり。
 
 幸せってさ、確かに人と比べるものじゃないし、ましてやこの家族を「何もなくてかわいそうだな・・・」何て思ったことはない。
と言うか、こんな生活水準なのにいつも家族一緒で楽しそうに笑って過ごせてるのが歌織には不思議なんだよね。
歌織は日本人で今の日本がどれだけ発展しているか知っているし、
そしてバリ人達の生活も見てきて両方知ってるわけだけど、
じゃぁこの生活をやってみなさいって言われたら素直に「ごめんなさい、できません。」って言うしかない。
彼らの生きる目的・・・食べるために生きる、働くって言うこの超シンプルな考え方、本当に人間の原点だよね。
だからと言って日本人ができるかって言ったら・・・できないよ。
でもだからと言って今の豊かな日本に住んでて毎日彼らのようにシンプルな考え方で笑って過ごせているか・・・。
少なくとも前の歌織は全然過ごせてなかった。
物質的には満たされていても心が満たされていない。
物質的には満たされてなくても心は満たされている・・・。
これ、どっちが幸せなんだろうね?
 
 でもさ、人間って何もなきゃないでちゃーんと生活できるんだよね。
歌織がバリで生活してて日本の数倍物質的には不自由だけどさ、(って言ってもバリ人達よりは贅沢させてもらってるけど)
何とかなっちゃうもん。その分、何もない分だけ自分の考え方がとってもシンプルになっていくんだよね。
この気持ち、これを忘れちゃいけないと思うんだ。いつかこの島から離れてもね・・・。
 
 そして明日はお休み。最近雨ばかりで外に出れないって落ち込んでいるエカの話し相手になってこよう。
何て言って、実は歌織がこの小さな子からたくさんの事を教わっているんだけどね。
そしてきっと覚えたての日本語で笑顔で迎えてくれるだろう。
「コンニチハ、カワイイカオリサン☆」ってね。明日は晴れるといいなぁ。


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