仕立て上げの真白いシャツに袖を通す、少々ヒールが高めの黒いパンプスと、
それに合わせて買ったバックを片手に、メイクもバッチリきめてみる。
「もう1年近く、こんな格好してなかったっけなぁ・・・。」何て呟きながら、久しぶりにアスファルトを歩く。
コツコツ・・・アスファルトに響くヒールの音が妙に懐かしく、そして気分を高揚させてくれる。
そう、ここはジャカルタ。世界中のビジネスマンが行き交うインドネシアの首都である。
何でジャカルタかって?まぁそんな細かい事は気にしない気にしない。(笑)
(ちなみにみなさん、バリ島はインドネシアにあります・・・)
空港を降りてからタクシーに乗り、真っ直ぐホテルへと向かう。
「うわ、高速じゃないですか〜」「わぁ〜い、高層ビルだぁ〜」「このショッピングセンター新宿高島屋よりデカイでしょ」
「こんなマンション住んでみたい〜!!」と、一々感嘆の声をあげる田舎者一人、
タクシーの運チャンの迷惑そうな顔も気にせず、「さすが首都よね。都会だわ〜。ふむふむ。」何てすっかりご機嫌である。
「バリから飛行機乗ってたったの一時間半でこんなにも世界が違うものなんだなぁ」何て思いながらふと、
窓の外に目を向けて釘付けになる。「・・・・・・。あぁ、やっぱりそうなのか。」
そこには一つの川が流れ、その川沿いには手作りで出来た家々(家なのか?何て表現していいかわからない)が、
びっちりと軒を連ねる。
「ブドゥグルにだってコンクリートの壁くらいあるのに。。。」生活してるんだよね、人々が、ここで、この場所で。
そしてそれとは全く対照的に、その背景には高層ビルがそびえ立っている。何てわかりやすい国なんだろうか。
お金持ちはますますお金持ちになり、貧乏な人はますます貧乏になっていく、、、そしてその事がはっきりと、
この街では当たり前のように目の前の現実にある。
歌織の中でのジャカルタは、東京と同じく「都会」のイメージで、みんながみんなそうなんだろうって思ってた。
でもそれはとんだ勘違いだったことに気づく。そして思い出す。ジャカルタからバリに働きに来ている人が言っていた言葉。
「ジャカルタなんてそういいものじゃないよ。うちは大家族だったんだけどさ・・・もうジャカルタには10年以上帰ってない。」
そう言って黙ってしまった彼。その時は「ふ〜ん。そうなんだ。」で済ませてしまっていたが、
今その言葉の意味が理解できた気がする。そして「バリはある意味豊かなんだな」って思った。
それでもやはり首都。メイン通りには日本の大手町よろしく、企業の高層ビルやショッピングセンターが立ち並ぶ。これには圧巻。
ちょっと通りを入るとその街並みはアジアの都市らしく、バンコクにも少し似てるかな・・・?とも思った。
今回は何人か知合いのジャカルタで働いていらっしゃる日本人に会う機会があって、それも楽しみの一つ。
同じインドネシアで働いている日本人同士、ちょっとした情報交換が出来たらなぁって。
その中の一人、旦那様がデンマーク人で以前はデンマークに住んでおり、結婚前はハワイで働いていたと言うキャリアウーマンの方と話す機会があった。「結局インドネシアに落ち着いたのよね。やっぱりこの国が好きだから。」と、笑顔で語る彼女。
色んな国で様々な経験とキャリアを積み、いくつかの仕事を通してやっと今の仕事にたどり着いたと言う。
「人生いつでもリセットできるのよ。そりゃリセットしなくていいなら尚いいけどね。」と、彼女は言う。
何ともパワフルで魅力的な女性なんだろうか。
歌織は今までバリ島で、申し訳ないけど彼女のような魅力を感じる人に出会っていない気がする。
まぁ元々あまり日本人とは関わっていないから、もしかしたらそんな方がいらっしゃるかもしれないけど、、、
そんな事を彼女に話したら「そうね、ジャカルタにいる人はみんな、仕事をしに来てるから。」この言葉が胸に突き刺さる。
「プライド」正にこれだな。彼女以外の方も同じ事を言ってたな。みんな自分の仕事に何て誇りを持っているのだろう。
そしてその上で、インドネシアをとても愛しているんだよね。
「色んな経験がしたい」と思ってバリにやってきた歌織にとって、彼女の言葉や考え方はとても新鮮であったと同時にとても考えさせられた。
「歌織はそこまで今の仕事に誇りを持っているのだろうか・・・」もちろんお給料をもらっている以上、いい加減な気持ちで仕事をしているつもりではないが、半ば趣味のような感覚があったのも確かだった。確かにバリ島で本当に貴重な経験をさせてもらっているけど、人間生きていくために働く事は当然だし、それは日本だってバリだって変わらないはずだ。「経験」と言うことにすっかり頭を取られ、現実が見えていなかった事がとても恥ずかしい。
今のバリ島経済はハッキリ言って最悪。
ニューヨークのテロ、そして去年のバリでのテロ、アメリカイラクの戦争、おまけに新型肺炎ウィルスときたもんだ。
これが観光業で食べているバリにとってどれだけの打撃を与えているかは計り知れない。
「ただ指を加えて待っているだけなのかな・・・」何て思っていた歌織、でも違うよね。今だからこそやるべき事って必ずあるはずだ。
私だって仕事をしてる。肩書きについているマーケティングマネージャーは何のための名前だったのか。
そしてその事に気付かせてくれたのも、歌織が彼女に出会えたおかげだと思う。そしてこれもまた、大事な「経験」じゃないか・・・。