歌織の独り言

11 Jun 2002


  日本を離れてから4ヶ月ぶりに帰国した。
「日本へ帰る」と言うより歌織の中では「旅行に行く」と言った方がしっくりく る。
久しぶりの日本は5月も半ばだって言うのに想像以上に寒くて驚いた。
最近「寒い」って言う感覚を忘れてたからなぁ、、、

  空港に着いてまず思ったことは、みなさん一斉に携帯電話を取り出し、メールチェックやら電話をかけ始めたこと。
日本にいた時はさほど感じなかったが、今回はその光景がとても不思議に見えた。
それにしても今の世の中、本当にほとんどの人が携帯を持ってるんだなぁ。とあるレストランに入ろうとした時、
ドアが開いて中から小学生が携帯で話しながら
「もしもし?あ、今ちょっと駄目なんだ・・・」と出てきた時は流石に苦笑してしまった。
話には聞いていたが、本当に小学生まで携帯を持ってるんだと驚いた。
もちろんご両親はまだ若い。でも子供が携帯電話を持って一体何の意味があるのか しら?
今では公園で遊びまわる子供の姿は見られないのかな・・・?

 バリでは最近子供たちの間で凧(カイト)が流行っているらしい。
お昼になるとSPAの前の空き地は凧揚げをする子供たちでいっぱいだ。
もちろん凧は自分達お手製のもの。みんなで自分の作ったものを自慢しあう。
少し見せてもらったが、なかなか良くできている。
「お父さんと一緒に作ったんだよ」と、目を輝かせて男の子は言った。
 
 バリでは小さい頃から両親の手伝いをしながら色々な事を学んで育つ。
男の子は丸まる一匹豚のさばき方(バリのお祭りの時の代表的料理は豚の丸焼き)、
どこか壊れた時の修理の仕方(本当にあらゆるもの)、火のおこし方など、
女の子は炊事洗濯などの家の一切の事、そして毎日のお祈りに欠かせない葉っぱで編んだお供え物の作り方など・・・。
とにかくバリ人はとっても器用。何をやらせてもすんなりとこなしてしまう。
逆に日本人の私達が何かするのに悪戦苦闘している方が不思議に見えるらしい。歌織もよくうちのスタッフに笑われてるし・・・。

 今日本で火をおこしたり何かを修理できる男の子、両親がいなくても家事一切を引き受け、
弟妹の面倒を見れる女の子は一体どのくらいいるのだろうか?
「そんなもの必要ない」と言われてしまえばそれまでだが、
そのことを通じて家族とのコミュニケーション、そして男の子は父親の存在・偉大さ、
女の子は母親の強さ(女性としての)、温かさを知るんじゃないかな。
そしてそれはとても大事な事だと歌織は思う。そう、生きていく上で人生の大先輩はやっぱり親だと思うから、、、

 話は戻るけど、バリにだって携帯はありますよ。
(いくら進んでないと言っても携帯くらいはちゃんとありますって)
但し、本体は日本より断然高い・・・。(バリ人給料3ヶ月分)もちろん一般市民は持てません。
ただ最近うちのスタッフが携帯を持ち始めた。さすがに驚き。
「何だ〜お金持ちじゃないの〜」なんて軽々しく口にしてしまった。
「違うの、家に電話引くお金がないから携帯しか持てないの。」
「・・・・・。(心の中でやってしまったぁ〜と叫ぶ私)」
そう、家に電話を引くって事はかなり大変なことなのをすっかり忘れていた。
電話線を引けるのに半年待ち、さらに月々の基本料金+ちょとの電話代が給料の3分の2である。とても支払えるものではない。
それでも携帯を持とうとするのはやっぱり少しは豊かになってきたのかな?なんて勝手な推測だが・・・。

 ある時、歌織が口にする。「あぁ〜何でこんなに貧乏なのぉ〜!!」と。
そしてそれを聞いていたうちのスタッフが言った。
「歌織さん、もしお金持ちの人は朝は何を食べる?」
「はいっ?えーいや、、、ご飯じゃない?」
「じゃーもし貧乏な人(歌織みたいな)は朝は何を食べる?」
「ん〜ご飯。」
「そうだよ、もしお金持ちの人でも貧乏な人でも朝はご飯を食べるんだよ。
何も変わらない、胃の中に入ってしまえばどんな食べ物だって一緒だよ。」
うん、確かにそうだと納得。
「じゃー歌織さん、もしお金持ちの人は仕事がなくなったらどうすると思う?もし貧乏の人が仕事がなくなったらどうすると思う?」
「・・・・・・・。」
「お金持ちの人が仕事がなかったりなくなったらあくせくとまた仕事を探しにあちこち奔放して気が焦る一方だよね?
逆に僕達が仕事がなかったら・・・家に帰って寝 るだけさ。かわいそうだね、お金持ちって。」ケラケラっと笑って彼が言った。
「だから歌織さん、貧乏だなんて言っちゃ駄目だよ。ご飯が食べれて寝る所がある。幸せだよね?僕達さっ。」
それ以上何を望むんだい?と言わんばかりに少々挑戦的な眼差しで歌織を見て言った。
あぁ、歌織は今まで何を見て生きてきたのかなって思うくらいショックであった し、
同時に歌織と歳が変わらない男の子がこんな考えをもってるんだとこれまたショックだった。
何でも手に入る日本にいたらきっとこの事は一生わからないまま終わっていただろう。
改めてこの島にいられることを感謝した。

 何回か「歌織の独り言」を書いていくうちに、「ん?ひょっとして昔の日本か?」って思うことがしばしばある。
もちろん歌織は昔の日本は知らないが、両親や 周りの人から聞いた話から想像するとそうじゃないかと思う、、、
 
ただ、バリ島は今、凄まじい勢いで大型ホテル、ショッピングモールなどが建設され、
物価は以前より急上昇し、若者達も日本を真似たファッションや、考え方も少し変わってきているようだ。 
この神々が住む美しい島、人とのふれあいを大事にする人々が、この先変わってしまわないようにただ祈るだけだ、、、

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